「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ー菌類、植物、動物、人間」を観ました。とりつかれたようにある一種の生物をうつしだしてきた6人のアーティストの展覧会です。
小林路子(こばやし・みちこ):キノコ
小林氏のキノコの絵は、紙にアクリル絵の具で緻密に描かれています。どこに生えていたものか、おいしいのか、どんな毒があるのか等本人によるキャプションがつけられ、それぞれのきのこに思い入れを感じさせます。
辻永(つじ・ひさし 1884-1974):植物
辻は日本の風景を描き洋画壇で活躍する一方で、少年の頃から愛した草花を生涯で2万枚以上描いたといわれています。その一部は「万花図鑑」「萬花譜」として出版されました(最近耳にしたこともありましょう牧野富太郎博士が監修)。
紙に墨と油彩でさらさらと(水彩っぽい感じで)描かれた草花。こちらもどこそこの庭で、等ひとこと添えられています。
今井壽惠(いまい・ひさえ 1931-2009):馬
交通事故で一時視力を失い、回復後に初めて見た映画「アラビアのロレンス」で馬の姿に感動、以来馬を撮り続けた写真家です。
自然の中を駆ける馬のシリーズ「ガラス絵の牧場」、競走馬のポートレートシリーズ「名馬の肖像」が展示。オグリキャップ、トウカイテイオー等、競馬に疎い人間にも聞き覚えのある有名馬の作品も。
冨田美穂(とみた・みほ):牛
牧場のアルバイトで牛に興味を抱き、別れが必ず来る彼らを覚えておきたいと描き続ける冨田氏。丁寧に彫られた大きな木版画はどこか感傷的です。
阿部知暁(あべ・ちさと):ゴリラ
画業に悩んでいたころ、先輩画家と行った動物園で「好きなものを描きなさい」と助言され、ゴリラを描くことに目覚めた阿部氏。ゴリラ愛溢れるゴリラの肖像を描き続けています。
内山春雄(うちやま・はるお):鳥
木材から野鳥を彫りだして彩色し、本物そっくりに仕上げるバードカービングを主に手掛けるも、博物館に納める鳥の模型や、希少な鳥の繁殖のためのデコイも制作。近年は触れて野鳥を知る「タッチカービング」の普及にも努めています。
タッチカービングは、木型からシリコンゴムで型取りし、ジェスモナイトで型抜きしたもの。40種近い鳥の精巧な模型が並んでいました。私はこれが面白くて触りまくってきました。視覚障害のある方々のために作られたものなのですが、見える人でもくちばしの鋭利さや足の細さなどは、触れたほうが目で見た時よりもよく分かると思いますよ。
続いて、「動物園にて ー東京とコレクションを中心に」も鑑賞。動物園に関する作品、資料の展示です。
まずは動物園がまだない江戸末期の動物の見世物の様子。これはトラというよりヒョウみたいです。昔はヒョウは牝のトラだと思われていたらしいので。
まだ「写生」という言葉や行為に馴染みがなかったころの、東京美術学校(現在の東京藝術大学美術学部)の学生による上野動物園のサルの写生図や、さまざまな動物の写生図が印刷された昭和初頭の上野動物園の入場券なども展示。この入場券の絵は田井正忠という図案家によるものです。
太平洋戦争突入後の「猛獣処分」についても紹介。上野動物園ではジョン、トンキー、花子の3頭のゾウなど、14種27頭の動物が命を奪われました。これを聞いて思い出すのは、この事件をもとに創作された「かわいそうなぞう」という童話ではないでしょうか。私これ、内容がいろんな意味で酷すぎて思い出したくないトラウマ本です。物語の中では空襲が激しくなり疎開させることもできなくてやむを得ず殺処分するという流れなのですが、それはフィクション。実際は空襲は起きておらず、火災などで逃げ出す前の予防としての措置(あるいはまだ戦争に勝っていると思っていた(思わされていた)国民にショックを与えるため)でした。
動物園をテーマにした昭和の絵画や写真もありましたが…、どうもどれにも物悲しい雰囲気が漂っていました。きっとまだ動物園は「見世物」の意味が強かったのだと思います。
動物園は研究施設でもあり、飼育動物の快適な環境づくりにも力を入れています。しかし動物愛護の意見がますます強くなる中、飼育動物の数や種類は減る一方です。やがて一般人が足を踏み入れられるような娯楽施設としての動物園はなくなるかもしれません。
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展覧会情報
上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間
会期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
会場:東京都美術館ギャラリーA・C
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
動物園にて ―東京都コレクションを中心に
会期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
会場:東京都美術館ギャラリーB
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
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