【内藤コレクション展 ゴシック写本の小宇宙 文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵】のメモです。
2016年に国立西洋美術館に寄贈された中世写本の企画展です。「日本のミュージアムには西欧中世のコレクションが欠けている」との思いから、中毒学を専門する学者/医師として知られる内藤裕史氏が蒐集してきたコレクション約150点を寄贈。内藤氏に賛同した長沼昭夫氏の寄付金により更なる蒐集が行われ、今回はじめてお披露目となりました。
コレクションの中核となるのは13世紀以降のゴシック写本。写本(manuscript)とは、「手で書かれたもの」を意味しています。ここで紹介されるのは、聖書、祈祷書、詩篇集、時祷書などの宗教的文書に豊かな彩色と装飾を施したものです。そして内藤氏こだわりの「一枚もの」。完本の形よりページが1枚ずつにばらけていたほうが鑑賞しやすいのです。
初期中世においては、聖書写本の制作自体が敬虔な祈りの行為でもあり(仏教の紺紙金字経みたいな感じかな?)、主に修道院の写本制作室(Scriptrium)で作られていました。13世紀以降になると都市部の大学の設立や教育水準の向上により書物の需要が高まり、世俗の出版業者の職業的写字生による小型の聖書が大量につくられるようになります。
「時祷書零葉(ラテン語およびフランス語):死者のための聖務日課(イニシアルN/狐)」
(フランス、おそらくアミアン 14世紀頃)
「N」部分拡大。
獣皮紙に書かれた祈りの言葉。Nの中に狐がいるのは、もしかしたら文の内容に関連しているかもしれません。AIによれば、この文の内容は「今、彼らは天から言う まるでこの世で警告されているかのように。」だという。狡猾さや誘惑を象徴する狐が警告の象徴として描かれている可能性も。
「ラテン語聖書零葉:創世記(イニシアルI/天地創造)」
(イングランド 1225-1235年頃)
「I」中央部分拡大。アダムとエヴァです。
ゴシック期には、このように物語場面や人物をイニシアル枠内に描き込んだ物語イニシアルが、聖書の挿絵の主流を占めています。
「ラテン語詩篇集零葉:詩篇102(線条装飾イニシアルと行末装飾)」
(マース川流域あるいはフランドル 1260-1270年)
イニシアル部分拡大。ぴょろぴょろした線条装飾。
行末装飾拡大。ドラゴンやペイズリー?のようなものが。
「詩篇集零葉:キリストの鞭打ち・十字架を担うキリスト」
(パリ・1260-1270年)
詩篇集の扉絵の一部であるこちらは、全頁大の挿絵のみが描かれています。幾何学紋様入りの背地、上下ふたつの円形枠、三つ葉型の枠という構図は、『ビーブル・モラリゼ(寓意註解聖書 Bible moralisée)』(13世紀のフランスで制作された道徳的解釈による図解聖書。全ページ挿絵入りの豪華写本)から借用されたと思われます。
「ラテン語詩篇集零葉:聖母讃詞「栄あれ天国の扉」抜粋(動物と混成人間を伴う装飾枠)、詩篇87(イニシアルD)」
(フランス北部(?) 1270-1280年代)
「混成人間」部分。鳥人かな?
「イニシアルD」部分。犬のような頭の頭の蛇のような何か。
ちょっと内容と関係があるのかわからない挿絵の入ったものも。このように余白や枠装飾の中に描かれたグロテスクだったり滑稽味のある人物や動物の像はドロルリー(Drollery)というそうです。13世紀後半から14世紀にかけて盛んに描かれました。
東京藝大付属図書館から借りてきたファクシミリ版(精巧な複製)も展示。
ファクシミリ版「ピーターバラ動物寓意集」(2003年)
動物寓意集(ベスティアリウム Bestiarium)は、中世に人気を博したキリスト教的博物譚。実在の動物に加え空想上の動物も描かれています。

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